優生学と人間社会―生命科学の世紀はどこへ向かうのか (講談社現代新書)
ハンチントン病と遺伝子診断の突きつける苦しみの深さ
(2006-09-04)
ハンチントン(舞踏)病という遺伝病があって、それがどんなに耐え難い苦しみを家族の一人一人に
与えているのか、与えてきたのかということを知った。
それは、遺伝子診断についての判断を突きつけられる苦しみを伴う。
著者のアリス・ウェクスラーさん(歴史学者)は、母親をハンチントン病で亡くした。
祖父、叔父たちの苦しむ姿を見ながら、発病の恐怖に怯え、徐々に病に冒されつつも、
家族にも打ち明けることもできず苦しむ母。
子どもにも発病の危険があることを隠し続ける母、やがて家庭は崩壊していく。
ついに母は発病し、自分と妹にも発病のリスク(50%)があることを知らされる。
恋人との暮らし、子どもを産まないという選択。
壊れていく母の人格を見ながら、自分も発病の恐怖に打ちひしがれる。
治療法を模索し、精神分析医の父と臨床心理学研究者の妹とともに、遺伝子診断のマーカーを見つけるために奮闘。
やっとのことで遺伝子診断が可能になったとき、遺伝子診断が突きつける問題の深刻さにたじろいでしまう。
どういう選択があるというのか?自分ならどうするのかと問うこともできない、厳しい現実がある。
その中で、遺伝子診断を受け入れる人、受け入れない人がいる。
陽性であるという診断を受けた人の、その後の生活はどうなるのか?
子どもを産むことを選択するためには、遺伝子診断が必要なのか?
どうしても受けることを選択しなければならない女性もいるということ。
母レオノアさんの孤独と苦しみがあまりにも痛ましい。
せめて、病気の研究のために遺伝子診断を強要されたり、その時の判断で、後の人生を
もっと多くの苦しみにさらされてしまうことがないように、サポートする体制がほしいと心から願う。
一般の人にもお勧めです。
(2006-07-30)
この本の一番希有なところは、この著者の家族の全員がこの不幸な病気の運命を背負っていたのと同時に、学歴と資力と家族愛に恵まれてこの病気の科学史を大きく動かしていける立場でもあったというところでしょう。母親を失い自分もいつ悲惨な死の病を発症するか分からない著者が感情豊かに描くプライベートな家族の物語と、一歩引いてどうやってその大きな科学プロジェクトが何も分からない状態から原因遺伝子の同定までたどり着いたのかという異なる二つの切迫したストーリーが同じ時間軸の上で織り交ぜられて描き出されています。最愛の家族の余命幾ばくもない状態、自分もいつ発症するか分からないリスク、そういった切迫感が実際に研究者達を大きく動かし、難航を極めた研究課題を一歩一歩克服していく迫力はこの著者でなければここまで描ききれなかったでしょう。
遺伝学や分子生物学に関して若干の知識を要する難しい部分があります。わからなくても、十分読み進められますが。