クルーグマンの視座―『ハーバード・ビジネス・レビュー』論考集
世界を不幸にするアメリカの戦争経済 イラク戦費3兆ドルの衝撃
アメリカがわかる、日本を考える
(2009-01-05)
1.この本の私なりの要約
アメリカにおいて、経済格差が広がったのは、技術革新やグローバリゼーションのせいではなく、「保守派ムーブメント」と、共和党が結びついたことが主因である。ところで、「保守派ムーブメント」などの主張では、大方の国民が不利になるのに、なぜ支持を集めたのか。それは、「保守派ムーブメント」が、白人の黒人に対する嫌悪を利用したからである。もっとも、最近は、白人も減少し、差別的ではなくなっているので、「保守派ムーブメント」の手口は通用せず、国民皆保険など、「保守派ムーブメント」が反対した政策を実現する絶好のチャンスであるから、進歩派が支持している民主党が政権を取るべきである(現に取りつつある)。
2.評価
(1)政治的、(2)データが根拠があるか検討できていない、(3)できるのか(富裕層に負担させるプロセスが不十分と感じた)?以上3点の疑問はあるが、それよりも、(ア)アメリカの政党政治の歴史がわかる、(イ)アメリカの現実や謎(なぜ国民皆保険ではないの?など)がわかる、(ウ)日本を考える上で有益(たとえば、小泉さんと人種的憎悪を考えるとよい。もっとも、相手も悪いのだが)、以上3点を重視し、星を減らさず、星5つ。
山形浩生氏の翻訳を待望
(2008-12-28)
他のレヴューでもありましたが、うーん、翻訳が硬すぎます。
硬すぎて面白みがイマイチ。
山形浩生氏の翻訳を待望したいところ。
新自由主義が問い直される時代に
(2008-12-08)
ミルトン・フリードマンが創始し、レーガン、サッチャー、中曽根、ブッシュ、小泉と世界を席巻してきた新自由主義が世界恐慌以来といわれる金融危機によって揺らいでいる。新自由主義経済に対して鋭い批判を展開してきたクルーグマンがノーベル経済学賞を受賞したのはまさに新自由主義の時代が終焉しようとしつつある時代を象徴するものであったと思う。
クルーグマンが2007年に上梓した本書は、20世紀アメリカの歴史を素描しつつ、ニューディールが作り出した50年代の中産階級の時代がいかにして破壊され、現在の大格差社会が到来してしまったのかという問いに答えようとするものである。これまで経済学は市場が全てを決定するかのように論じてきた。つまり経済が政治を規定するとされてきたのである。だが、本書は政治の経済に対する優越性を強調する。経済的グローバリゼーションが格差を広げたのではない。むしろ70年代に右派急進派が共和党を掌握したことこそが格差拡大の原因である。著者は「すべての根源はアメリカの人種差別問題にある」という。福祉制度の逆行の背景には公民権運動の成果に対する白人の反発があるという。結果台頭した「保守派ムーブメント」こそが「制度」と「規範」を変化させ、格差の拡大につながったというのである。故に著者は不平等と格差を是正するために再び政治が大きくイニシアティブを取ることを主張する。社会保障整備を軸とする新しいニューディールを著者は強く訴えている。
真っ白な紙上で数式を羅列するかのような無色透明な経済学に対し、クルーグマンが提示するのは「人種問題」というひどく特殊アメリカ的などろどろした政治的要因が大きく経済を規定してきたということ。これまでも制度学派は新古典派経済学に対し批判を展開してきたわけでがここまで「制度」や「規範」が強調されるものなのかと驚かされた。経済学の門外漢にとっても興味深い一冊であった。
政治的すぎ
(2008-12-03)
クルーグマンがどんどん政治的になって、とうとうついていきにくくなってきました。アメリカ経済がどん底の90年はじめ頃に、ヴェンチャー企業を中心にアメリカ経済が復活することを見事に的中した頃が懐かしい。ノーベル賞をとったからといっても、僕は、高い評価をする気になりません。
格差問題の本質的な原因
(2008-11-28)
格差は重要な社会問題として既に深刻に受け止められている。本書の斬新な点は、格差の原因が技術の進歩やグローバリゼーションではない別なところにあると指摘している点にある。
それにしても、クルーグマンの舌鋒は鋭い。こんなこと書いて大丈夫か?と、読んでいてちょっと心配になるくらい、アメリカ社会の筋金入りの保守層に対して切り込んでいる。人種の問題に関しても遠慮はない。
おそらく、この本を読みながら多くの人が考えたであろうことを、私も考えさせられた。すなわち、
・大恐慌x第二次世界xルーズベルト→中産階級の発展を生んだ政策
・サブプライムローン問題xイラク戦争xオバマ→??どうなる??
である。
一方、本書から整理すると、今のアメリカの格差をもたらした直接的な原因は大きくわけて以下の2つである。
・所得の再配分を弱めた政治(税の累進化軽減、社会福祉プログラム削減等)
・給与の2局化(CEOの高額報酬など)
このうち、後者については、今の景気減退による企業業績の悪化によって急速に批判が高まっているので、今後多少是正される可能性はあるかもしれない。一方、前者についてはどうか。著者が訴える「節度」「道義」は重要な要素だと思うが、ここが今後一番注目されるところだろう。また、この前者については、今の日本の政治にも共通していえることである。
いずれにせよ、社会においてもっとも重要な問題のひとつに対して、読者にいろいろなことを考えさせる、あるいは考えるということを誘発する、という点で良書だと思われる。格差はアメリカだけの問題ではないのだから。
訳者が割愛したという、米国社会の法律・制度、政治事情、風俗の詳細部分についても、私は読んでみたかった。